総 括
2021年6 月、「経済財政運営と改革の基本方針 2021」、いわゆる「骨太の方針」が閣議決定されました。コロナ対策が優先事項である中、歯科に関わる記述においては新たな視点として「飛沫感染防止」「歯科における ICT 活用」が打ち出されましたが、「生涯を通じた切れ目ない歯科健診」は継承されています。
これは、宮城県が取り組んでいる「宮城県歯と口腔の健康づくり推進条例」と「第 2期宮城県歯と健康づくり基本計画」の目的、基本理念と方向性は一致しています。
本アンケート調査(2006〜2021 年)は、宮城県内 35 市町村における歯科保健事業進捗状況の把握・検証を目的としています。項目毎に、各市町村の保健施策の詳細が記載されていますので、過去のアンケート結果も併せて歯科保健活動推進の参考にしていただければ幸いです。
妊産婦期では、コロナ禍の厳しい状況下事業を中止することなく、歯科健康診査を実施する自治体数は増加していますが、対面方式による保健指導は微減となっております。ライフステージのスタートである妊産婦期の指導は、以降のライフステージの礎であり、各自治体にゆだねられている保健指導内容については、地域間格差解消のため統一されたガイドラインの作成が必要となるでしょう。宮城県は東北大学大学院歯学研究科監修のもと、宮城県歯科医師会・宮城県歯科衛生士会共著によるパンフレット「妊娠期からはじまるお口の健康〜子どもの健康は妊娠中から〜」を作成しております。保健指導の際にご活用ください。
乳幼児期においては、コロナ禍における制限があるにもかかわらず各自治体が地域性を考慮し積極的にかつ独自性をもって保健活動をされています。宮城県の令和1年度の1歳6 カ月一人平均むし歯本数は 0.04 本(全国平均 0.03 本)、3 歳児が 1.4 本(全国平均 1.0 本)、6 歳児のむし歯有病率 41.7%(全国平均 36.5%)ではありますが、都道府県間の格差は解消しつつあり着実に成果が挙がっています。3 歳児歯科健診から未就学時歯科健診までの期間は、日常生活の基本的習慣を身に付ける時期となります。個々の生活環境因子に左右されない保育園・幼稚園等による年齢に応じたフッ化物の普及啓発、歯科保健指導の実施が望まれます。
学齢期において、宮城県の令和 2 年度 12 歳児一人平均むし歯数は、0.9 本(全国平均 0.7 本)、12 歳児のむし歯有病率 41.7%(全国平均 36.46%)であり、全国平均値に及ばないまでも一定の成果を挙げつつあります。今後は、学童に対して治療勧告のみならず自発的に予防に取り組めるように、口腔内の健康についての啓発運動の強化が必要となります。すべての自治体が、フッ化物の有効性について認識していることから、学童期に限らず安価であり安全なフッ化物の使用を推奨していただくことも重要です。感染対策に十分に留意していただければ、コロナ禍においても非常に有効なむし歯予防手段と考えられます。
成人期・高齢期においては、主に節目歯周疾患検診が実施(1 自治体のみコロナ蔓延のため中止)され、次年度も継続することが予定されています。各自治体は受診率向上のため多くの対策を講じていますが、歯周疾患検診受診率は 0.93%〜48.25%と自治体間に大きな隔たりがあります。そのなかでも比較的受診率の高い自治体はおおむね個別通知を行っています。成人期は行政がかかわる歯科保健活動との接点が非常に希薄な時期になります。この時期に多くの方々が歯周病に罹患し歯周病による歯牙の喪失が始まります。大学、専修学校、職域、コミュニティ等に対して積極的にアプローチを行い、かかりつけ歯科による専門的ケアや歯周疾患検診が全身の健康維持に寄与することを継続的に伝えていくことが重要であり、健康な口腔機能を維持し高齢期に移行していくことが課題となります。
口の機能障害(食べられない・話せないなど)は、幅広い年齢層に認められますが、アンケートの相談は主に高齢者からと推察されます。注目すべきは「固いものが食べにくい」「むせやすい」「口が乾く」「飲み込みにくい」など軽微な口腔機能障害の訴え「オーラルフレイル」です。フレイルは健康と要介護状態との中間に位置し、そのフレイルの前段階に位置する「オーラルフレイル」は可逆的であることが特徴です。すなわち、本人はもとより家族やかかりつけ医、かかりつけ歯科医師、医療従事者などが、「オーラルフレイル」を早期に認識し、社会とのつながりを失わないように正しく対処(治療や予防)・支援すれば、高齢期においても健康な状態を維持することが可能となります。
歯科保健推進体制において、1 自治体のみ歯科保健条例を制定されています。
条例の有無をも含めて制定までの議論の過程が、住民の方々と行政の意識改革を促し、自主的かつ円滑に歯科保健事業が推進されると考えられます。ご検討宜しくお願い致します。
障がい児・者歯科保健については、専門的な知識をもつ人材と医療設備の確保が困難なため、各自治体の取り組み方に、地域間格差が出現しやすい分野となります。専門的歯科医療体制が未整備の場合は、口腔内状況が悪化を招かぬようにフッ化物を活用しながら、定期的にかかりつけ歯科医にて管理することが望ましく、近隣自治体と連携し移動困難な障がい児・者が、必要な時に必要な処置が受けられるような体制整備を期待します。
国の医療政策の一つである 8020 運動は、開始当初 10%未満からスタートし平成 28年には全国平均 51.2%を達成しています。これは健康への意識変化、生活習慣の改善、歯科医療における技術・材料の進歩、歯科検診の定着、行政の積極的介入、多種多様な口腔衛生用品の出現などによって、口腔内のステージが無歯顎・多数歯欠損から多数歯残存に移行したことを意味し、多数歯残存あるいは入れ歯などで口腔機能を回復した場合、生活習慣病や認知症の発症リスクが低くなり、免疫力や身体機能の維持向上が報告されています。以上のことから歯科保健事業の更なる推進は健康寿命の延伸に貢献し、医療経済効果も期待できると思われます。
ご多忙にもかかわらず、本アンケート調査にご協力していただいた各市町村の担当部署職員の皆様には、心より感謝申し上げます。この貴重なデータは、これからの歯科保健活動推進に有効に活用させていただきます。
一般社団法人宮城県歯科医師会地域保健部会
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